第5章

 

 修学旅行の日がやってきてしまった。

 もう、せっかく修学旅行なんだから、あの3人のことは忘れて、

 エンジョイしよう。そう思っていた。

 まさか、まさかの出来事が起こるとは、ボクはあの時、思わなかった。

 

 私鉄特急の中で。

 「誰かトランプ持ってる?」

 「オレ持ってる。やろーぜ。大富豪。」

 「革命ありでな。」

 そのとき、ボクは急にトイレに行きたくなった。

 「ちょっとタンマ。トイレいかして。」

 トイレから出てきた。そしたら、菜摘がいた。

 「裕太。」

 「菜摘・・・なんか用?」

 「・・・ごめん、何でもない。」

 うーん、あれは何か言いたかった様な言い方だ。めちゃくちゃ気になった。

 「なんか言いたいんだろ?」

 「べつに。」

 「いーや、その言い方は絶対何か言いたかったような言い方だ。」

 「別にないって!」

 その時。

 ガタンっ

 チュッ

 「へ?」

 列車が突然揺れた。

 その瞬間、ボクと菜摘が・・・!(ご想像におまかせします)

 「・・・・。」

 「・・・・。」

 何も言えなかった。ただ無言で、ボクは菜摘に背を向け、自分の席へと急いだ。

 ・・・誰も見てなかっただろうな・・・

 

 トランプやってるのに、ボクは、さっきの出来事で頭がいっぱいだった。

 「おい、裕太の番だぞ。」

 勝平が言った。

 「あ、ごめん・・・。」

 「おい、いま革命したんだぞ。そのカードは出せへんやろ。」

 「あ、ごめん・・・。」

 「おい、どないしたん?さっきからボーっとしやがって。」

 「別に。なんでもない。」

 うー、さっきのことが頭によみがえってくる・・・

 あー、いま菜摘は何考えてるんやろか・・・

 

 広島に着いた。

 最初の目的地は原爆ドーム。

 「うわー、本で見たそのままやね。骨組みだけ・・・ちょっと裕太、聞いとる?」

 「ん?あ、あぁ・・・。」

 「もー、気の抜けたような顔しちゃって。なんかあったの?」

 横からぶつぶつうるせんだよ西野は。それでもクラス委員かっつーの。

 ・・・関係ないか?

 原爆ドームなんてまともに見てなかった。ずぅっと、あの出来事のことを思い出してた。

 何とか正気になったのはホテルの部屋に落ち着いてからだった。

 

 つづく・・・。

 

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